先日から、僕は家にある蔵書を整理する、という新たな試みをしている。
書籍1冊がそこまで大きなものではないから、ほとんど気付かれることがないが、書籍は場所を取るものである。
そのため、数百冊と溜まってしまった書籍(すでに1-200冊は、アマゾンとブックオフで売却したのだが・・・)や雑誌、資料は非常にかさばり、 一部屋が書庫となってしまうほどだ。
ここで僕が自覚していることは、その進展の遅さである。
まだ整理途中ではあるが、この試みはかれこれ今年の初めくらいから、徐々にしているのだ。
つまり、すでに1,2ヵ月かかっても、まだ整理が完了していないという、なさけない状態なのである。
人生では、さまざまな場面で新しい何かをする必要に駆られる。
たとえば、新しいビジネスを始めなければならなかったり、新しい顧客を獲得しなければならなかったり、 新しいパソコンを買わなければならなかったり、新しいスキルを身につけなければならなかったりするなどである。
そして、新しい何かをする際につきものなのが、「困難」だったり、「壁」だったりである。
要するに、新しい何かをすることは、非常に難しいことだということである。
では、なぜ、新しいことをすることが難しいのだろうか?
また、いったい、なぜ、僕が蔵書を整理するということに、これほどまで時間がかかってしまうのだろうか?
その大きな理由のひとつが、スイッチングコストが発生するということである。
スイッチングコストとは、顧客が、現在利用している製品・サービスから別の製品・サービスに乗り換える際に負担しなければならないコストのことで、 金銭的なコストだけでなく、心理的コストや時間などのコストも含まれている。
たとえば、契約しているインターネットサービスプロバイダーを変更する場合、 変更のために金銭的なコストを負担することに加えて、いくつもの面倒な手続きや、 メールアドレスの変更、連絡などの負担しなければならない、さまざまなコストのことである。
僕の蔵書整理の場合、現況からのスイッチングコストを感じているために、進展が遅いのである。
たとえば、整理という労力コストが発生することに加えて、「この本は、いつか役に立つかもしれない」、 「この本は、いるだろう」などと愛着があるために、処分する際に大きな心理的コストが発生してしまうのだ。
また、このスイッチングコストは、新しいことをすることが難しい理由について説明してくれるのと同時に、 多くの市場で価値が低いと思われる製品やサービスが生き残っている理由について説明してくれる。
不思議に思ったことはないだろうか?
たいしてサービスが良くないのに、なぜか生き残っている店。
たいして品質が良くないのに、長年ずっと生き残っている製品。
変な並びかたなのに、 まだこの並びが生き残っているパソコンのキーボード。
これらが生き残っている理由は、 スイッチングコストがかかわっているからだ。
人は、一度慣れてしまったものを手放してしまうことが、苦痛なのである。
だからこそ、僕は一度手に入れて、自分のものにしてしまった蔵書を手放してしまうことが非常に心理的に苦痛なのである。(とはいえ、徐々に整理しているが)
そして、このスイッチングコストは、ビジネスを行っていく上で非常に重要である。
なぜなら、ビジネスをするということは、他の人に新しい何かをさせることがほとんどだからである。
たとえば、新規顧客を獲得するとき、おそらく彼らには、既存のシステムや長年使い続けてきたような 、今まで取引していた製品やサービスがある。
あなたが彼らと取引するには、 それらからスイッチさせなければならないのである。
そのため、それらからスイッチさせて、新規顧客になってもらうために重要なことは、 彼らのスイッチングコストを限りなく減らす努力をするということなのである。
たとえば、製品の処分コストを負担することや、スイッチに際してのトレーニングやサポート、 また、スイッチ前と同じやり方で取引ができるようにすることなどだ。
自分が新しい何かをすることは、とても難しい。
同じく、他の人が新しい何かをすることも、とても難しい。
そして、他の人に、新しい何かをさせるということも、とても難しいのである。
もし、新しい何かをしたり、させたりするときには、スイッチングコストについて振り返ってみると、何かが見えるかもしれない。